Crescent Moon



当日になっても知らされないなんて、そんなことはいくらなんでもないだろう。


どこのクラスになるかは分からないけれど、もしもという可能性を考えただけでゾッとする。




教師としての私と、本当の私は違う。

仕事をしている時の私と、プライベートの私とでは違うのだ。


教師としての私の印象が崩れてしまったら、どうしよう。


教師は、生徒のお手本となるべきもの。

そう教えられてきたし、私自身もそう思っている。



あんな場所で煙草を吸っていた私が悪いのだけれど、そんなことになってしまったら悔やんでも悔やみきれない。


ああ、これでも頑張ってきたつもりだったんだけどな。

プライベートはダメ女でも、教師としては精一杯虚勢を張って、熱意を持って、ここまで走り抜いてきたつもりだったのに。


そんなことを考えているうちに、職員室に辿り着いてしまった。










薄いクリーム色のドアを、一気に開ける。

中を覗き込めば、そこに並ぶのは見慣れた面々。


毎日顔を合わせている人達に声をかけつつ、その中の1人に駆け寄る。



「藤崎先生、おはようございまーす!」


わざとらしく、藤崎先生と呼んでみる。

2人きりの時には、絶対藤崎先生だなんて呼んでやらないけどね。


ほんとは、下の名前で呼び合うほどの仲なのだから。


藤崎先生と呼ぶのは、他の先生が周りにいるからだ。

一応ね。



私が藤崎先生と呼んだその人が、緩やかな動きで振り返った。

振り返ると同時に、ふんわりといい香り。


鼻孔の奥にまで優しく届くその香りは、甘くて柔らかい。



女というか、女の子らしいというか。

私には甘ったるいとさえ感じてしまう香りも、彼女が身に付ければほどよい甘さになるから不思議だ。


私なら、まず選ぶことのない香水。

だって、こんな甘さ、私には似合わない。


可愛いけれど、可愛らし過ぎて、私には釣り合わない気がしてしまうのだ。

どうしても。



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