Crescent Moon
『ターゲット』



春は、新しい1年の始まりを告げる季節。

悲しい別れと、それとは別に、出会いを連れてきてくれる季節。


この季節になると心が躍ってしまうのは、浮かれているせいだろうか。

陽気に誘われて、年甲斐もなく、意味もなく、楽しい気分になってしまう。



おかしいかな?


私だけなのかな?



28歳の春。

もうすぐ三十路の私にも、1つの出会いがあった。


出会いたくて、出会った訳ではないのだけれど。





冴島 直輝。


初対面の女に、平気で毒を吐ける男。

年下のクセに、年上の人間を敬えない男。



しかも、それだけなら、まだいい。

まだ、救いがある。


極めつけは、二重人格なのだ。

冴島という、悪魔みたいな男は。



私の前では無愛想なのに、他の人の前では愛想を振り撒く。

無表情だった時とはうって変わって、最高に爽やかな笑顔を無駄に作り上げる。


人畜無害そうな顔をして、人を騙す。

人の良さそうなフリをして、裏では違う顔を見せる。



それが、冴島 直輝という男。


私が知る、冴島という男なのだ。



意味が分からなかった。

そうまでして、自分を偽る意味が私にはどうしても理解出来ない。


人を騙す、その理由は。

自分を偽る、その意味は。



理解出来ない。

したくもない。


あの男は、悪魔だ。

現実には悪魔という存在なんてなくても、私にとっては、あの男こそが悪魔そのものだ。



運命なんてものがあるならば、それは自分の思い通りには進んでくれない。

真逆の方向へ、私を導いていく。


悪魔と、悪魔の様な冴島と、同じクラスを受け持つことになってしまった。



何の因果か。

私が、何をしたというのか。


誰か、運命なんてものを否定して下さい。

出来ることなら、思いきり変えてやって下さい。



抗うことの出来ないまま、今日も騒がしい1日が始まった。



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