Crescent Moon
『Crescent Moon』



年を重ねれば重ねるほど、自分を隠すのが上手くなった。

素知らぬ顔で、それとなく嘘をつくことが出来るようになった。


社会人になって、6年。

30歳を目前に控える年にもなれば、それなりにいろいろなことを経験していく。

それがいいことなのか、悪いことなのかは置いておいて。



幼い頃に思い描いていた大人に、少しは近付けているのだろうか。

人として、成長出来ているのだろうか。


決して、楽な道ではなかったことは確かだ。


楽しいことばかりではなかったけれど、それでも今も、こうしてここに立っている。

1日1日、過ぎてしまったら戻ることのない毎日を、自分なりに頑張って生きている。



そうしているうちに、私が失っていたもの。

1人で突っ走っていたが故に、置いてきてしまったもの。


それに気付いた。



それは、あの頃持っていた素直さ。

自分をさらけ出す勇気。


自分のことは自分が1番分かっているだなんて、そんなものは嘘だ。


私は迷っている。

見失っている。


1番よく分かっていたはずの、自分の気持ちを。

素直さとともに、自分の心を見失ってしまったのだ。

きっと。



社会人として生きていく上で、愛想笑いというものを覚えた。

自分の感情を殺して、消すということを覚えた。


そうした方が、上手く生きていけるから。

周りの人、特に目上の人間と上手にやっていけるということを嫌というほど知ってしまったから。



楽しくなくても、笑った。

悔しくて泣きたくなっても、涙を堪えた。


泣いても、何も解決しないから。

笑って、その場が和むなら、その方がいいと思ったから。



そうしているうちに、私は本来生まれ持った素直さを忘れていった。

失っていった。


世渡りが上手くなったのと同時に、ある意味で、自分というものを失っていったのだ。


ようやくそれに気が付いたけれど、もうどうしようもない。







自然というものは、不思議なものだとつくづく思う。


人を変えるというのか。

それとも、元々持っていたものを思い出させるという方が正しいのか。



その力は絶大だ。



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