線香花火
 自然と合う歩幅に歩調が心地よい。隣に感じる温度と、繋がれた手から伝わる温度が温くて優しい。失恋の傷が完全に癒えたとはまだ言えない。それでも傷薬は塗っている。それは聡太に塗ってもらったものだ。
 なんだか不思議な感覚だ。ただの幼馴染みだったはずなのに、それが3分前にはキスをする仲になるなんて。ただ、一番不思議なのはそれら全てが嫌ではないということだ。

「はい、到着。」
「送ってくれてありがとう。」
「うん。」

 離れた手。繋がれないことが普通だったはずなのに今はそれが少しだけ寂しいなんて、本当に不思議だ。

「帰るの、いつだっけ?」
「来週日曜のお昼頃。」
「そっか。じゃあ来週土曜、祭り行くか?」
「あ、あー…もうそんな時期かぁ。うん、行く!」
「…じゃあ、その日はそのまま俺んち泊まる?」
「無理。」
「なんで。」
「お父さんとお母さんに何て言えばいいかわからない…し。」
「俺の家族が久しぶりに澪波に会いたがってるから晩御飯ご馳走になるでいいじゃん。で、酔い潰れて泊まってくるで。」
「そんなバカみたいなこと…。っ、ちょっと!」

 ぐいっと腕を引かれて、そのまま抱き寄せられた。耳元に吐息を感じる。

「…土曜までしかいないなら、その後しばらく会えないわけだし。その前に全部貰っておきたいんですけど。」
「っ、なにそれ!」

 よくもまぁこんなにも下心をずけずけと言えるものだと逆に感心してしまう。

「…ピュアピュアな澪波ちゃんはキスで満足かもしれないけど、成人男性にとってはキスだけだと生殺しなんですが。」
「それはわかってるけど!」

 ピュアな恋愛だけを知っている年ではもちろんない。だから理解はあるつもりだ。

「わかってるなら、頂戴?」
「…お祭りで線香花火、買ってくれる?」
「お安いご用。」
「…一緒にやってよ?」
「勿論。」
「じゃあ…考えておく。」
「前向きにどうぞよろしく。」
「…バカ。」

*fin*
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