線香花火
* * *

「うわー!結構屋台出るんだねー!」
「ゆっこも行くって言ってたっけ。」
「あ、そうなの?じゃあもしかしてあの男の子とかな?」
「大輝?」
「大輝くんっていうんだ。由起子ちゃんのことが好きで好きでたまんないーって感じの男の子。」
「あーそれ間違いなく大輝。」
「そっか。なんかね、あの二人見ててすごくいいなぁって思ったの。」
「んー…ちょっとわかるかも。なんていうか、甘酸っぱいっていうの?可愛いというかなんというか…。」
「うん。そんな感じ。それに私、失恋して、それを忘れたくてこっちに戻って来たじゃない?それで一番最初に目にしたのがそんな青春真っただ中!っていう二人でさ。羨ましいとか戻りたいなぁとか色んなことを思ったけど、でも一番シンプルに残ったのはピュアだなぁって。」

 クリアな気持ちで相手を想って、ただその想いの成就だけを願って。純粋にその気持ちだけあれば満たされるような年であることそのものに意味があると思った。大人になって得たものも確かにあるけれど、子どもの頃にもっていたあらゆるものが削ぎ落されてしまったような気がして、それはそれでなんだか物悲しい。

「ピュアだよ。そんなゆっこの話を毎日のように聞かされると、大人になったなぁ自分って結構思う。」
「…そうかもね。色んなものを忘れていくし、失くしていく。そういう私が失くしちゃったものを、由起子ちゃんたちは持っているような気がして…。」
「澪波と高校まで同じだったら、ゆっこたちみたいに自然に一緒にいたかなーとか妄想した。」
「へ!?」

 突然の告白に変な声が出た。一体何を言ってるんだこの男は。

「あの頃俺がもってた『好き』が恋愛なのか、正直よくわかんない。でも、今は埋めたいと思う。会わなかった時間も、距離も。」
「…なに、よ、突然…。」

 聡太のこの真面目な表情に自分がめっぽう弱いことを知っている。だからこそ、この目で見つめられると微動だにできない。

「つまり、今は澪波と一緒に過ごしたいってこと。明日まで離す気ないよ、俺。」

 手がぐいと引かれる。その先にはいい香りが待っている。
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