線香花火
「…そ、うた…?」
「おー…久しぶり、だな。」
「ひさし、ぶり…。」

 突然すぎる、幼馴染みとの再会。こうしてしっかりと顔を合わせて話すのは、中学ぶりかもしれない。進学校に通った澪波は忙しかった。それこそ、青春らしい青春を充実させることがあまりできないくらいには。
 聡太の焦げ茶色の短い髪が潮風に揺れた。そういえば昔から少し髪が明るくて(地毛である。)、小さい頃はそれをからかわれていたことを思い出す。負けん気の強かった澪波が守ってあげていたのは、小学校低学年の話だ。

「…10年ぶりくらい?」
「そうね。見かけたことはあったけど、こうしてちゃんと話すのは、そのくらいになるかも。」
「こんな時期にどうした?まだ夏やすみじゃないだろ?」
「…ちょっと早めの夏休み。」
「そっか。羨ましい。」

 思い起こせばこんなやつだった。ぽつりぽつりと、口を開く。口数は少なくて、でも口元は適度に緩んでいて。時折気だるそうに見えるけれど、本人としてはそうでもなくて。なんだか掴み所のないやつだった。それは今も健在のようだった。

「どのくらいいるの?」
「2週間、かな。」
「長いな。」
「リフレッシュしたかったから。」
「そっか。じゃあ飲みにでも行く?」
「え?」
「俺、明日は残業多分ないし。」
「だからってなんで…。」
「久しぶりに澪波と話したいから。予定あるなら別の日でもいいけど。」
「予定はないけど。」
「じゃあ決まり。駅前に7時でいい?」
「大丈夫。」

 トントン拍子で事が進んでいく。なんだか不思議な感覚だった。長い間、当たり前みたいに傍にいた。そして、長い間離れていた。離れていたのだ、確実に。それにも関わらず、会ってしまえば当たり前のように隣にいる。それがとても自然なことのように。

「…まだ、ここにいる?」
「ううん。帰る。」
「じゃ、帰ろう。」

 道路側を歩く聡太の歩幅は、それこそ当たり前のように澪波の歩幅に合っている。
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