線香花火
* * *

「え、待って。」
「何でしょう?」
「どの辺が可愛い?私が可愛い要素、あった?」
「ありまくりだろー。聡太がいてくれてよかった。頑張った笑顔。俺にだけ甘えてくる完璧な小林澪波。ときめきポイント高いじゃん!」
「いや、ときめきポイントとか知らないし!ていうか私、完璧なんかじゃないし。」
「うん、知ってるよ。でも完璧であろうとしてるんだよね。そういう澪波だから、俺はあの頃からずっとどこかに傍にいたいなーって気持ちをもち続けてたんだと思う。」
「の割には何のアクションもありませんでしたが。」
「…無理だろ、どう考えても。凡人な俺。完璧美人の小林澪波。どう考えてもつり合いが取れなさすぎてさすがに無理。」
「へぇー…聡太でもそういうの気にするんだ。」
「俺が上位なら気にしないけど、圧倒的下位だからね。」
「そうかなぁ。私のことについては完璧無敵の聡太くんですけど?」
「…っとに、そういうとこがさぁ…ずるいわけ。」

 不意に澪波の背中に回った聡太の腕。こうして突然抱きしめてくるときの聡太の耳は確実に赤い。

「…それは、俺が澪波の些細な変化も見逃したくないなーって思って見てるから。気付けるのは自分だけであってほしいって思ってるからだよ。…多分、これ自覚したの、中学のあの日だけど。」
「え…えぇ!?そうなの?」

 思わず距離を取って、聡太を見つめた。気恥ずかしそうに目を逸らして、ぼそぼそと聡太が答える。

「多分。…あの時は、あれが好きって気持ちだとは思ってなかったけど、初めて付き合った彼女とデートとかしてたときに不意に澪波のことが浮かんでさ。…あの罪悪感たるや。」
「待って待って。じゃあなんで言ってくれなかったの?」
「8割方諦めてたから。バリバリの進学校、大学、就職を決めてる澪波の隣に立つ度胸がなかったとも言えるけど。だから、あの日に再会できたのは奇跡なんだって。俺にとってはラストチャンス。」
「ラストチャンス?」
「初恋と向き合って、気持ちを清算するための。澪波のさよならしたい気持ちに付け込んだ、俺のラストチャンス。」
「…その言い方はさ、っていうか今までの話の流れ全般、絶対聡太の方がずるいけどね。」
「まぁ、意気地なしの過去話ですよ、意気地なしの。」
「そういう意気地のないところも、まぁ嫌いじゃないよ。」
「おーい、そこは好きだよって言ってほしかったなー。」

*fin*
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