線香花火
「澪波、好きだったじゃん。」
「なんでこんなどうでもいいこと覚えてるの?」
思わず笑いが込み上げてくる。堪えきらなくなって、澪波は吹き出した。
「は!?なんでそんなに笑う?」
「だ、だって…ほんとそんなどうでもいいこと…あとそのどや顔。」
「…っ…お前なぁ!せっかくラムネ持ってきたのに!」
「ごめんごめん。いただきます。確かに今もラムネ好き。」
「最初っからそう言ってほしかったんだけど?」
「ごめんって。」
手渡されたラムネの瓶はとても冷たい。そういえば瓶のラムネを飲むのはとても久しぶりだ。小さい頃はよく飲んだが、少なくとも東京に出てからは瓶のラムネは飲んでいない。
ビー玉をぷしゅっと押すと、炭酸が弾けてラムネが上がってくる。慌てて口をつけて顔を見合わせた。
「つ、冷た~!」
「澪波、下手くそ。」
「聡太が振ったからこうなったんでしょ?」
「俺の瓶はそうならなかったけど?都会人になって、腕前落ちた?」
「ラムネに腕前なんてあってたまるかー!」
澪波がそこまで言い終えると、聡太がまたふはっと笑った。
「…何よ?」
「いや、ようやく俺の知ってる澪波だって。」
「え?」
「声、掛けるの躊躇うくらいには違う人の顔してたから。でも、段々戻ってきた。」
「べ、別に違う人とかじゃないし。」
「…そうだな。ごめん、そうだよな。」
その後は何故か気まずい空気になり、それを互いに何処と無く感じてか、口を開かなかった。ただ、ラムネの炭酸を喉に感じては、懐かしさを噛み締めた。
「ん、美味しい。」
「夏と言えばラムネだろ。」
「…そう、ね。久々に夏らしい夏休みかも。」
「社会人になってどんな夏休み過ごしてたんだよ。」
「…無機質な?」
「寂しいな、それ。せっかく久しぶりに帰ってきたんだから夏らしい夏休み、過ごせるといいな。」
まるで一人言のように呟く聡太の横顔は、なんだか澪波の知らないものに思えた。記憶の中の聡太は、そんな大人びた表情をしない。
「ラムネ、ありがとう。じゃ、また明日ね。」
「…また明日な。」
少しだけ昔に戻ったような気持ちを抱えて家に戻る澪波の足取りは、海に向かうときよりも数段軽いものになっていた。
「なんでこんなどうでもいいこと覚えてるの?」
思わず笑いが込み上げてくる。堪えきらなくなって、澪波は吹き出した。
「は!?なんでそんなに笑う?」
「だ、だって…ほんとそんなどうでもいいこと…あとそのどや顔。」
「…っ…お前なぁ!せっかくラムネ持ってきたのに!」
「ごめんごめん。いただきます。確かに今もラムネ好き。」
「最初っからそう言ってほしかったんだけど?」
「ごめんって。」
手渡されたラムネの瓶はとても冷たい。そういえば瓶のラムネを飲むのはとても久しぶりだ。小さい頃はよく飲んだが、少なくとも東京に出てからは瓶のラムネは飲んでいない。
ビー玉をぷしゅっと押すと、炭酸が弾けてラムネが上がってくる。慌てて口をつけて顔を見合わせた。
「つ、冷た~!」
「澪波、下手くそ。」
「聡太が振ったからこうなったんでしょ?」
「俺の瓶はそうならなかったけど?都会人になって、腕前落ちた?」
「ラムネに腕前なんてあってたまるかー!」
澪波がそこまで言い終えると、聡太がまたふはっと笑った。
「…何よ?」
「いや、ようやく俺の知ってる澪波だって。」
「え?」
「声、掛けるの躊躇うくらいには違う人の顔してたから。でも、段々戻ってきた。」
「べ、別に違う人とかじゃないし。」
「…そうだな。ごめん、そうだよな。」
その後は何故か気まずい空気になり、それを互いに何処と無く感じてか、口を開かなかった。ただ、ラムネの炭酸を喉に感じては、懐かしさを噛み締めた。
「ん、美味しい。」
「夏と言えばラムネだろ。」
「…そう、ね。久々に夏らしい夏休みかも。」
「社会人になってどんな夏休み過ごしてたんだよ。」
「…無機質な?」
「寂しいな、それ。せっかく久しぶりに帰ってきたんだから夏らしい夏休み、過ごせるといいな。」
まるで一人言のように呟く聡太の横顔は、なんだか澪波の知らないものに思えた。記憶の中の聡太は、そんな大人びた表情をしない。
「ラムネ、ありがとう。じゃ、また明日ね。」
「…また明日な。」
少しだけ昔に戻ったような気持ちを抱えて家に戻る澪波の足取りは、海に向かうときよりも数段軽いものになっていた。