魔女の瞳
私の当時の棲家は、この針葉樹の森の奥深くにあった。

いわゆる丸太小屋という奴だ。

「う~っ、寒い寒い。着替えないと」

小屋の中に入り、びしょびしょに濡れた服を脱ぎ捨てる。

そして手早く着替えた後。

「暖炉暖炉。あ、薪木もなくなりかけてるわね。後で調達しないと」

私は暖炉に歩み寄り、適当に薪をくべた後。

「     」

詠唱と同時に指先に魔力を集中させた。

人差し指の先に灯る、朱色の輝き。

それを暖炉にくべた薪に近づけると、薪は簡単に炎に包まれた。

「うわ、すごい!」

そばで見ていたエリスが目を丸くする。

「メグさん、今何をしたんですか?」

「何も教えないって言わなかったかしら?」

私はエリスの顔を見る。

「あ…そうでしたね…」

ショボンとするエリス。

…仕方ないわね、この子は。

「初歩の初歩、火を灯す魔術よ」

私は溜息混じりに言った。

詠唱が聞き取れなかったのは、私の扱う呪文が神代の言葉…即ち神話の時代の言葉だから。

現代の人間には発音できないし、聞き取れない。

加えて私は呪文の詠唱の際に『高速詠唱』と言われる技術を使う。

例えば高度な魔術を行使する時には長い呪文の詠唱が必要だ。

一人前の魔術師でも、高度な魔術を行使するのには一分近い詠唱を必要とする。

魔術を使う者同士の戦闘は、詠唱速度が明暗を分けると言ってもいい。

そこで魔女は高速詠唱を使う。

本来なら一分かかる詠唱を、たった一言呟く程度の時間に短縮してしまうのだ。

といってもただの早口言葉という訳でもなく、これはこれで高度なテクニックを要するのだけれど。

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