花の名は、ダリア


(誰だろう…?)


ノックの音に、クララは困惑した。

そりゃそうだ。

夜間労働者。
春を売る者と買う者。
後は、マスクを被ってアヤシィ儀式を行う者。

それ以外の人々は、深い眠りに落ちている頃なのだ。

そんな時間に訪問者なんて…

ドアを開けるべきか、無視するべきか。
迷うクララの耳に、聞き慣れない声が届いた。


「あのー…
あのー…
僕です、アランです…」


(アランさん…
って、食肉工場の?)


驚きながらも覗き窓から確認すると、確かに外にいるのは、さして親しくもない同僚だった。

ナニしに来たンだろ。

てか、この人、こんな声してたンだ。
さらに言えば、この人、声出せたンだ。

通報レベルの凝視に気づいていないクララにとっては、そんな認識。

突然の訪問の意図が、全く掴めない。

だけど、大体の帰宅時間はわかるだろうし。
そもそも、カーテンから明かりが漏れているだろうし。

あまり接触がないとは言え、職場の仲間に見え見えの居留守は使えない。

クララは溜め息を飲み込んで、玄関ドアを薄く開けた。

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