花の名は、ダリア
Ⅷ
(誰だろう…?)
ノックの音に、クララは困惑した。
そりゃそうだ。
夜間労働者。
春を売る者と買う者。
後は、マスクを被ってアヤシィ儀式を行う者。
それ以外の人々は、深い眠りに落ちている頃なのだ。
そんな時間に訪問者なんて…
ドアを開けるべきか、無視するべきか。
迷うクララの耳に、聞き慣れない声が届いた。
「あのー…
あのー…
僕です、アランです…」
(アランさん…
って、食肉工場の?)
驚きながらも覗き窓から確認すると、確かに外にいるのは、さして親しくもない同僚だった。
ナニしに来たンだろ。
てか、この人、こんな声してたンだ。
さらに言えば、この人、声出せたンだ。
通報レベルの凝視に気づいていないクララにとっては、そんな認識。
突然の訪問の意図が、全く掴めない。
だけど、大体の帰宅時間はわかるだろうし。
そもそも、カーテンから明かりが漏れているだろうし。
あまり接触がないとは言え、職場の仲間に見え見えの居留守は使えない。
クララは溜め息を飲み込んで、玄関ドアを薄く開けた。