正しい小鳥の愛し方【愛を知る小鳥 特別番外編】
それから俺たちはこの旅の最後の時間をゆっくりと楽しんだ。
普段ほとんど物を買うことがない美羽も旅の高揚感からだろうか、いつにも増していろんな物に興味を示していた。また彼女の新たな一面を見られて楽しい。

そしてここを発つ前にもう一度、富士を眺められる場所へとやって来た。

「楽しかったか?」

「はい!とっても。潤さんのおかげで素敵な思い出ができました。本当にありがとうございます」

「本当ならもっと長い時間海外でもゆっくり連れて行ってやりたかったんだが・・・近場で悪かったな」

俺の言葉に美羽は心外だとばかりに首を振る。

「そんなことないです!潤さんと一緒ならどこでも楽しいんです。どこに行くかじゃなくて、誰と過ごすかが大事なんですよ」

富士山を背に朗らかに笑う彼女は、また一段と魅力的になったように思う。

「来年は3人で来ような」

「・・・・・はいっ!」

弾けるような笑顔を見せる彼女の体をそっとを引き寄せると、俺たちは目の前に広がる景色をしっかりと心に焼き付けた。
来年・・・新たな家族を迎えて一体どんな日々を送っているのだろうか。
慣れないことばかりできっと毎日ドタバタと忙しなく過ごしていることだろう。
それでも彼女とならば、全てがかけがえのない瞬間になっていくに違いない。

もうすぐそこにまで迫っているその日がたまらなく待ち遠しく思えた。





後日談だが、会社に持っていったお土産を秘書課の面々はたいそう喜んでいた。
だが部屋の片隅で『富士男さん』を見つめながら、何とも言えない引きつった顔で成田が笑っていたことに気付いたのは・・・・俺だけだったのは言うまでもない。




【可愛い小鳥には旅をさせよ・fin】
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