ためらうよりも、早く。


その空間を開け放ち、ひとりでここに現れた尭と目が合う。バタン、と扉を閉めて歩みを進めて来る。


私は足のばたつきを止めて立ち上がりかけたが、間隔を空けて隣に座った尭が真似をする有り様。


——ということで、はしたないお仲間がもうひとり増えた。


普段は頭の痛くなる会話ばかりが繰り広げられるテーブルも、今は私たちふたりのベンチ役。


そこで互いの顔を見合えば、「気分がいい」と口にするコイツも相当な人間である。


整った横顔で嫌味なほど長い足を組む男の姿を、誰が“鬼の中嶋チーフ”と信じるだろう……?



「今日は日帰りですか?」

隣から尋ねられ、現実が一気に押し寄せてくるのでついつい溜め息も出てしまう。


「向こうの支社長と会って来いって、社長の“素敵な命令”よ。――で、今日しか空いてないの」


遅くとも、あと30分後には空港へ向かわなければいけない。だから今日の私は、大人しめのスタイルにまとめて出社していた。


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