ためらうよりも、早く。


苦笑を浮かべる男を煙に巻き、背を向けるとそのままドアに向かって進んで行く。


金色のドアノブを手にした刹那。「でも」と発した声は、静寂の場に幾許かの震えをもって響く。



「……結婚する男とはもう2人で会わない。これ、私のセオリーなの。どうであれ金輪際、会わない。
私が男好きなのは認める。でもね、面倒が絡むのはすこぶる大嫌いよ。……“昔馴染み”だもの、それくらい知っているでしょ?
縁切れに絶好のタイミングだから教えてあげる。ふふ、私たち変なところまで奇遇みたい。
――私も結婚するの。……やっと究極の男に絞って、独り身返上ね」

早口で言い切った瞬間、ホワイトの洋風ドアを開け放つ。


「ちょっ、ゆず」と個室内から聞こえたのも構わず、バタンッと性急に扉を閉めてしまう。



「どうなさいましたか!?」

支配人と思しき声に混じって、フロアを駆けるマナー違反を咎めるような声も背中に受ける。



それでも、何も気遣うことが出来ない。その中に、「待て!」と静止を促す声が混じっていたせいで。


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