ためらうよりも、早く。
ただし、今回ばかりは私が彼女の立場だったとしても同じ反応をするだろう。
古典模様のスリッパをペタペタと鳴らしていつもと同じ時刻にリビングへ顔を出したのが、今から遡ること3分前。
「お腹空いた〜」と現れたのんは、悪阻と戦いながらも妊婦生活を過ごしている。
既に席についていた私は微笑ましい姿につられて笑みを零し、「おはよう」と声を掛けた。
「おはよー。今日の特に可愛いね。どんなイメージなの?」
「ああ、私への少し早い餞ですって。
ふふっ、ママも実は行き遅れかけた娘を追い出したかったのね。ひどいわー」
「……は?」
そこで、にこやかだった彼女の表情が固まる。その直後、広々としたリビングに木霊したのが冒頭の言葉というわけだ。
「いやいやいや!餞って結婚!?え?ち、違うよね!?」
やっぱり、のんはのんらしい。ひとりであたふたしつつ、ツッコミを入れるところもお馴染み。