ためらうよりも、早く。
いま対峙する男は気色悪い笑みを浮かべ、佇む私に喜悦な視線を寄越してくる。
……やっぱりウザいわ。蹴りをお見舞いしたいが、それはルブタンが可哀想なのでやめておく。
尭以上にムダに整ったヤツと福岡支社の応接室で遭遇するなんて、果たして誰が想像できる?
食事を忘れるほど仕事に夢中になれる集中力や、有名アパレル企業を経営する重役としての顔も。この瞬間、あっさりと忘却の彼方に飛んでしまう。
そんな様子をにこやかに眺めている原因に対し、どうにもならない悔しさが舌打ちに繋がった。
そういえば、とここに到着するまでの経緯を思い出す。
珍しくエントランスで待機していた支社長が、会うなり口にしたではないか。
しかも、“専務にお客様が”と言い淀み、その顔もひどく青い顔で困惑の面持ちだった。