ためらうよりも、早く。


「では、ご連絡お待ちしております。はい、失礼します」

ようやく通話を終えたスマホは書類の山へと投げるように置き、小さく息を吐き出す。


そして座っていた革張りのオフィス・チェアに深く背を預けると、暫し真っ白な天井を仰ぎ見た。



専務及び業務執行取締役――これが、私が責務を果たすための肩書きである。


役員には上階にそれぞれの部屋が設けられており、ここで事務仕事や個々に客人をもてなす。


普段は静かなので集中して出来るのだが、賑やかな下の階を訪れるとそのギャップに驚くこともよくある。


もしも、朝比奈の息のかからない企業で一般社員として働いていたらどうだったのか、と何となく感じながら。


同年代をはじめ、父親ほど違う年齢の社員や取引先と渡り合う緊張感は常にある。でも、ここを任される限り、変わらないのだろう。


傍目には羨まれることの多い重役だが、会社と従業員の生活を守るのが大前提。


それを踏まえた上で、今後の経営方針ならびに戦略を生み出していくのは本当に難しい。


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