ためらうよりも、早く。
これに出会った瞬間、それまで使っていた物は、のんにピッタリだと惜しまず譲ってしまった。
腕に填めたが最後、そんな最愛時計は使うごとに愛着が増していく。いつ見ても癒されるのだから、もう自己満足で構わない。
——ルブタンの靴といい、“物”に関してひとつをこよなく愛するタイプと言われる所以はコレね。
ちなみに、尭もこのブランドの時計が好きだ。アイツの腕にも、シンプルながら目を引く品がシャツの袖から見え隠れしている。
そのためか、彼は今年の妹の誕生日に別シリーズのものをプレゼントしていた。
「柚希さんとカブると二番煎じに思われるし、もちろん別のですよ」
「それはそれはお気遣いどうも。
でも、あれって割とカジュアルなラインよね。イメージと違うから意外」
「それが良いんですよ。——男(オレ)に貰ったのが一目瞭然なんで」
そう平然と言いのけた尭をよそに、のんはにこにこしながら自らの腕に填まった真新しい時計を眺めていたのは記憶に新しい。
“オマエの時間は俺のもの”なんて意味合いもあるでしょう?とは、あえて口にしなかった。