ためらうよりも、早く。
恭しい態度のドアマンの出迎えでホテルに足を踏み入れると、そのままエレベーターホールに向かう。
淡々としていながらスマートなこなしの接客は一流の証。私も女子会やホテル・ステイを楽しむ時によく利用している。
両側に開いた一台のエレベーターにひとり乗り込むと、扉は静かに閉まり高速で上昇していく。
時刻は21時15分過ぎ。先ほどまで続いた会議が予定終了時刻よりも長引いたため、完璧に遅刻である。
メインの話はシンガポールの新店舗設立の件。
尭と水橋さんが用意してくれた資料でスムーズに承認を貰えるはずが、煩いオヤジこと相談役が立ちはだかった。
その相談役というのが前常務。少々面倒な人物であるのは私も身をもって知っている。
意地汚さと数々の悪評は社内でも有名。これは水橋さん情報だが、相談役になって業務に携わらなくなったこともあり、彼の知らないところで社内が歓喜に包まれていたらしい。
ちなみに、私も役員就任時に彼から最後まで猛烈な反対を受けたし、就任後も暫くの間はあからさまな態度をされた。