ためらうよりも、早く。


これをきっかけにシーズンごとに一点、妹発案の洋服がフェミニン・ラインに加えられることになった。


本人は張り切って落書き(これは尭が言う)に取り組んでいるし、姉としても頑張る姿には素直に嬉しい。


「で、私は宣伝費ゼロの広告塔よ」


普段の格好からしても、明らかにフェミニンさ満点なヒラヒラ揺れるこのデザインには違和感がある。


しかし、広告塔として着て過ごすのも仕事のうち。洋服に着られてはダメ。“私流に着こなす”のがアパレルに携わる者の腕の見せ所だ。


お陰で今日も商談に伺ったオフィスで、このワンピの購入を決めた女性がいたのだから、こんなに嬉しいことはない。



「なんだかんだ言うのも、のんの為だろ?ーーほんと、柚希は優しいね」

「アンタと尭以外にはね」


「違うな」

そこで膝に置いていた手にそっと触れられる。指と指が絡み、恋人繋ぎの形でキュッと力が込められた。


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