ためらうよりも、早く。


膝と膝が触れる密着感。息づかいが分かってしまう距離。真っ黒な瞳の奥に宿る男の熱。


対峙する男の温度も香りも表情も、どれもが2度目の夜の光景を蘇らせていく……。


「今日だって、柚希が不親切なヤツならそのまま帰ってるよ。……そうだろ?」

「ど、いうつもり?」

近づいてきた美麗な顔に絆されそうになりながらも、震えた声音で問いかけた。



「会いたい理由なんて、いる?」

「わ、たしには必要よ」

「ちゃんと会って、“お帰り”って言われたかったから。
柚希は息抜きしなけりゃすぐにオトコで発散するから、急いで帰国したって分からせるため」


セクシャルなイメージがまだ続いていて良かった、と心の中で安堵する。


すると骨ばった指先が頬に触れてゆき、人差し指でクイっと顎を引き上げた。



「これで良い?」と、優雅な笑みを誇るその顔を少しだけ傾け、確認してくる男。


「……そう、ね」


私が何も抗えないのは、ほろ苦い思い出に負けてしまうから。……それでも、この手が愛しく感じているから。


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