恋のカルテ

 それから数日後、彼の残した少しの荷物と、たくさんの写真は、知人だという出版社の人がすべて引き取りにやって来た。

「初めまして、西野と申します」

二十代前半だろうか。とても若く見えるその男の人は、ジーンズのポケットから無造作に取り出した名刺を私に差し出した。

「失礼ですが、あなたたが加恋さんですか?」

「はい、私がそうですが。……なにか」

「実は、鴇島さんが生前、あなたをモデルにした写真をコンクールに出展していまして。もしかしたら、最終審査に残るかもしれないんですよ。覚えていますか?……桜の」

そう言われれば覚えがある。車いすで行った丘の上の桜の木の下で、トキさんは私の写真を撮った。

「桜……はい。でもそんな。コンクールに出されているなんて知りませんでした。しかも、コンクールっていうことは、たくさんの人に見られるんですよね?」

「まあ。大賞を取ったら雑誌やテレビなんかでも紹介されると思います」

「そんなの、困ります。辞退することは出来ないんですか?」

戸惑う私にその人は大丈夫ですと笑った。

「あのアングルなら、あなたの身内でもおそらくモデルがあなただとは気が付かないんじゃないでしょうか? それに、鴇島さんの最後の作品ですし、このまま見守っていただけると、とてもありがたいです」

ぺこりと頭を下げられて、私は思わず承諾してしまった。

それは多分、私自身もトキさんの作品を応援したいと思ったからなのかもしれない。

「それなら、いいですよ」

「いいですか? よかった。受賞したらご連絡しますから」

「はい、楽しみにしています」

でも、その写真が、私に思わぬ人を引き合わせてくれることになるなんて、この時は夢にも思っていなかった。

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