委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
 振り向いた桐島さんの顔は、氷のように冷ややかだった。メタルフレームの眼鏡が、窓を反射したのかキラリと光り、彼女の目が見えないから、余計にそう見えるだけかもしれないけど。


あの可憐な少女は、本当にこの人なんだろうか……


 呼び止めておいて何も言わない僕に呆れたのか、桐島さんは再び前に向き直りそうになり、僕は慌てて彼女に歩み寄った。


「ちょ、ちょっと待ってください」

「…………」


 無言で僕を見る桐島さん。近付いてみれば、冷ややかと感じたのはやはり気のせいではなく、彼女は本当に冷ややかな顔で僕を見ていた。


「あ、あの、指名なんかしてすみませんでした」

「…………」

「迷惑でしたか?」

「……別に」

「そ、そうですか。良かった……」


 僕が指名した事を桐島さんは怒っているかと思って言ってみたけど、一応は否定してもらえたので僕はホッとした。


「あの……」


 続いて僕が話そうとしたら、桐島さんはクルッと前を向き歩き始めてしまった。


「ちょっと待ってください」


 僕は急いで彼女の前に回り込んだ。


「何よ?」

「えっと、打ち合わせをしませんか? 歩きながらでいいんで……」

「何の打ち合わせ?」

「もちろん文化祭のです」

「それはまだ早いでしょ? 夏休みの後に委員会があるから、その後でしましょ?」

「あ、はい」

「さようなら」

「あ、ちょっと……」


 横を通り過ぎようとする桐島さんを僕は呼び止め、彼女は、“まだ何かあるの?”と言わんばかりに迷惑そうな顔をした。

 その冷ややかな彼女の態度に怯みそうになりながらも、僕は意を決して言ってみた。


「この間は濡れたでしょ?」


 と。僕はどうしても確かめたかったんだ。あの時の可憐な少女と、今、僕の目の前にいる冷ややかな委員長が、本当に同一人物なのかという事を……


 すると桐島さんは、少し間を置いてから小さな声で言った。


「あの時はごめんなさい」


 僕は立ちすくみ、教室を出て行く桐島さんの、その小さな背中をただ呆然と見送るのだった。

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