委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
 真琴さんが教えてくれた病院は、私の家からほど近いある総合病院だった。それは奇しくも一年前、私自身が救急車で搬送された病院でもあった。私にとっては悲しい記憶しかない病院で、出来れば二度と行きたくはなかったのだけど、今はそんな事は言っていられない。

 エレベーターに乗り、真琴さんから聞いた番号の病室へ行った。そこは個室らしく、ひとつしかない名札には“相原悠斗”の文字がった。

 コンコンと扉をノックすると、すぐに扉は横に開かれ、真琴さんが現れた。私の記憶ではボーイッシュで溌剌な印象の真琴さんだったのだけど、この時の彼女は表情が暗く、元気がないように見えた。


「どうぞ」

「あ、はい……」


 私は胸騒ぎを覚えながら病室に入り、窓際のベッドへ近づくと、相原君が仰向けで寝ていた。

 頭に包帯を巻かれ、顔には大きな絆創膏が貼られてはいたけど、それ以外は相変わらず綺麗な顔をした相原君が、目を閉じて眠っているようだった。


「昨日、バイクで車に衝突したらしいです」

「バイクで……ですか?」


 相原君がバイクに乗っていたなんて、私はちっとも知らなかった。彼からも、そんな話は聞いた事がないと思う。


「阿部さんというお友達から、バイクを借りたみたいです」

「あ、そうなんですか……」


 同級生で相原君と仲が良いらしい阿部君なら、バイクに乗っていても不思議はないと思った。なぜなら阿部君って、ちょっとやんちゃな感じで、悠斗に似たところがあると思っていたから。


「命に別状はないらしいけど、頭を強く打ったみたいで、未だに意識が戻らないんです」


 真琴さんは低い声でそう言って、ズズッと鼻をすすった。


「そうなんですか……」


 私はそれしか言葉が出なかった。ここへ来るまでに感じた不安や胸騒ぎが、当たってしまったと思った。もちろん当たってほしくなんて、なかったのに……

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