LOVE or DIE *恋愛短編集*









佐多岬を訪れるのは、大学2年のあの時以来だった。


駐車場からトンネルを抜け、行く手を邪魔するソテツにうんざりしながら、ジャングルみたいな長々と続く道を歩く。

突如視界が開けたと思ったら、断崖絶壁の下には真っ青な海――爽快な風景は一瞬で、またジャングルへとルートが続く。


まさかここへ、1人で来ることになろうとは。


あの時のような昂揚感はなかった。
風景は朧な記憶をよみがえらせていく。
けれど、気持ちまでは戻らない。


旅先の無駄に楽しいあのテンションが戻って来ないのは、1人だからか、年とったからか。

それとも、あの頃とは変わってしまった、旅の目的のせいだろうか。


ガラスが割れた、とっくに廃業したのが一瞬で見て取れる、多分元食堂か何かの裏を通過する。

随分な道だけど仕方ない。
これが正規のルートなのだから。

この建物は前もあった気がする。
でも、ここまで廃屋ではなかったような。


左手に小さく開けた展望所が現れた。

ようやくほっと息がつけるのは、記憶にも鮮明に残る『佐多岬』の立札とその後ろの景色のおかげだ。

眼下には広大な海。
遥か向こうに見えるのが大輪島、日本最古の灯台。



海風を感じながら、潮の香りをめいいっぱい吸い込んだ。
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