嫌われ者に恋をしました
「……申し訳ありません。仕事の途中なので」
雪菜はじっと凍りついていたが、なんとか口を開いて、瀬川に出ていくよう促した。
すると瀬川は近寄って来て雪菜の手を取ろうとしたから、雪菜は驚いて立ち上がった。その勢いで椅子が大きな音を立てて倒れた。
「あれえ?雪菜のくせに俺を拒むわけ?」
久しぶりに聞く「雪菜のくせに」という言葉に、雪菜は眉をひそめた。瀬川はことある毎に「雪菜のくせに」とよく言った。
『雪菜のくせに俺の言うこと聞けないの?』
『雪菜のくせに俺を困らせるの?』
『雪菜のくせに俺に迷惑かけるの?』
もう「雪菜のくせに」なんて言ってほしくない。そんなの私、人じゃないみたい。
もう思い出したくない。
あの頃の私は、瀬川さんをすごく好きになってしまった。それなのにこの人にとってはただの都合のいい女だった。それでも捨てられるのが怖かったなんて。
「やっぱり君が一番なんだよ、君はいい子だからね」
いい子だなんて。それは都合がいい子って意味なんでしょう?
「……私、いい子なんかじゃありません」
瀬川は少し目を細めた。
「ふーん。ま、そういう君も新鮮でいいけど」
瀬川が近づいてきたから、雪菜はじりじりと後ずさりした。