嫌われ者に恋をしました

 あんなに温かい雰囲気なのに。悪いこととは無縁な雰囲気なのに。そんなの考えられない。

「詳しく調べたらわかると思うけど、手が込んでるよ。去年の分は丁寧に隠している。わからないと思ったら大間違いだってこと、伝えるしかないな」

「伝えるんですか?」

「もちろん。上にも報告するよ。損失が大きければ、もっと調査が入るかもね。でも、それはお偉いさんが判断するから。俺らはただの露払いだよ」

 確かに監査って間違いだけではなくて、不正を見つけるためにあるんだけど……。

 なるべく人目を避けて、人の気持ちを逆撫でしないよう静かに生きてきた雪菜には、相手の不正を暴いて伝えるなど、とても考えられなかった。

 講評の前、隼人は涼しい顔をしていたが、雪菜は怖くてドキドキしていた。営業所の人たちはみんな笑顔で、「本当にお疲れさまですね」と声をかけてきて、やっぱりとても優しい感じだった。本当なのかな。何か隠しているようにはとても見えない。

 隼人は表情を変えることなく、静かに口を開いた。

「きちんと管理をされておられると思います。整理保管もきちんとされていましたし。ただ、棚卸しの残数が一部不自然ですね。それから、売り掛けの設定が明確でない部分は、改善してください。せっかく丁寧な仕事をされているのに、疑われてしまいますよ」

 雪菜は直視できずじっと下を向いていたが、チラッと見た時、笑顔で親切だったオバサンの表情が一瞬こわばって、殺気が走ったように見えた。そのギャップに戦慄が走って、雪菜はすぐにまたうつむいてしまった。やっぱり課長の言う通りなのかもしれない。
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