甘やかな香りと魅惑の蜜
病院は1週間で退院となった。

病院にいる間、食事もしようとしなかった私は、無理やり食べるように言われ食べない限り誰かしら看護師がついていた。

しかし、退院後は看護師がつくわけでもなく一人で静かな部屋になにもしないで座り込んでいた。

最初は、元職場の友人や同級生等が頻繁に様子を見に来ていたけれど、生気のないただ座って外を見ている私を見て、一人また一人と来なくなった。

私は、その事を理解したけれどなにも感じなかった。
いや、むしろそれでいいと思った。

なにもしない生活をして二週間と少しが経ち、元々痩せていた私の外見は痩せているの一言で片付けられるものではなくなっていた。

それでもなお、なにもしないで窓の外を眺めているとチャイムなった。
誰も来なくなったはずなのに…

返事をしないで外を見ていると、訪問者は勝手に部屋に入ってきた。

「返事が無かったので勝手に上がらせてもらった。久しぶりだな、高梨 瑠璃くん」

その声は聞き覚えがあった。

「………」
しかし、返事をしないでいると訪問者は勝手に椅子に座った。

「話もできないのか?……まあいい。今日、私がここに来たのは君をもう一度会社へ向かい入れるためだ」

「………」

「君の同僚から聞いた。なにも食べないでずっと外を見ていると。君は、死のうとしているのか?」

「………」

「…はぁ。君は彼の最後をその目で見て聞いたのだろう?なぜ、それなのに死のうとする。彼がそんなことを望むとでも思っ…」

思っているのか?と訪問者が聞こうとしていた。
しかし、私がそれを遮った。

「貴方に翠斗(あきと)の何がわかるんですか?」

怒りを露にしてゆっくりと訪問者の方へ振り向く。
そこに座っていたのは、予想していた人物だった。
訪問者は元職場の上司、冬槙 諒雅(りょうが)だった。
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