甘やかな香りと魅惑の蜜
「良かったな。まだ、彼のことに関しての感情は残っているようだな」

私の反応をみて、少し安堵したような声をだした。

「……」

私が再び無言になると、座っていた椅子から立ち上がって、私の近くにきた。

「会社に戻れ」

一言、そう言ってきた相手を睨み付けると真剣な表情で話してきた。

「君はこのまま何もしないで死ぬつもりなのか?死んだら、君の好きだった彼についての感情も思い出もすべて無くなるんだぞ。自分から無駄なことをしていることにいい加減気づきなさい」

相手の言っていることは確かだった。
自ら無駄なことをして、彼の望まない道へ踏み込もうとしていた。
私は、もう一度彼の最後の言葉を思い出した。

『…僕がいなくなっても生きて…』

はじめて、彼の真意がわかった気がした。

瞬間、私の両目から熱い滴が流れた。

「…あ」

ただ、泣くことしかできなくて…
泣くことを思い出させてくれた冬槙さんは、ただ、そんな私を優しい顔で見守っていてくれた。

この出逢いが私の何かを変えてくれた。
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