ずーっと待ってるよ。
☆1☆
「ふう…やっと着いた。本当にここは変わらないのね」
引っ張っていたトランクを立てかけて、大きな桜のある高台の上から町を一望する。
私は小さい頃、この小さな町に住んでいた。町といっても本当に小さなところで、周りは豊かな自然に囲まれている。
体の弱かった私を心配していた両親は、この自然豊かな町なら少しずつでも健康な体になってくれるだろうと、小学校を卒業するまでこの町で過ごさせてくれた。おかげで、私の体は成長するにつれて、普通に運動することができるまでになった。
青空の下を自由に走り回れるようになった感動は今でも忘れたことはないし、これからも一生忘れることはない。両親には本当に感謝している。

ただ、私には心残りがあった。
友達だ。物心ついた頃から一緒に遊んでくれた友達。
儚(はかな)そうな男の子だった。
彼もあまり体が強くないと言っていた。
体が弱く内気だった私と唯一一緒に遊んでくれた優しい男の子。
両親の仕事の都合で引っ越すことになり、離れ離れになってしまった。その時約束したのだ。《高台にある桜の下でずっと待ってるから、必ず会いに来てね。》
と。
その時、お守りがわりにと桜の模様が入った男の子とおそろいの鈴をもらった。
『このすず、おまもりがわりにあげる。』
『あ、さくらのもようがついてる!』
『これ、ぼくだとおもってつけて』
『わかった、ありがとう!』
その鈴は紐(ひも)を通していつも手首につけている。
とはいえ、もうあの日から10年以上経つから、待っているかどうかなんて、わからないよね…
高台を見渡しても、あるのは青い葉をつけたしだれ桜と、その下に広がる憎たらしいほど青々しい芝生だけ。ただ、ため息だけが溢れる。手首の鈴がチリンと音を立てた。
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