ずーっと待ってるよ。
☆2☆
いつまでも高台にいるわけにもいかず、町の小さな旅館に行くことにした。この旅館の女将さんとは親ぐるみで仲がよく、仕事で家に帰るのが遅かった両親の代わりに、親身になって構(かま)ってくれた。
「お久しぶりです、ユウコさん」
「いらっしゃい、はるなちゃん。あらまあ、綺麗になったわねぇ」
「ユウコさんも綺麗なまま、お変わりないですよ」
「ありがとう」
そんな他愛もない会話を広げながら、今日泊まる部屋へと通される。

「そう言えば、はるなちゃんは光君の事は聞いてる?」
「光君に何かあったんですか?」
「あら…まさか聞いてない?光君ね、はるなちゃんが引っ越した次の年に行方不明になってるのよ」
光(ひかる)君とは、あの桜の下で一緒に遊んだ男の子の事だ。
え、光君が……行方不明?
「警察には…」
「ええ、親御さんが警察に届け出を出したんだけど、今も見つからないままなの…。町の人達は神隠しにあったんじゃないかって」
ユウコさんは、頬に手を当てて心配そうに話している。
「そう……ですか」
私はただ呆然とするしかなかった。約束した彼は行方不明。
だから、あの桜の下で待ってなかったんだ。泣きたいのに、何故か泣けなかった。ただ、彼からもらった鈴をぎゅっと握りしめることしかできなかった。
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