今夜、きみの手に触れさせて
やだよ、純太くん。
どうして……?
通る車の中にはお父さんの乗っているタクシーが混ざっているかもしれない。
知り合いがいるかもしれない。
ううん。知らない人にだって、イヤだよ。
こんなふうにキスされているところ、誰にも見られたくはない。
純太くんの唇が離れ、腕の力が少し弱まったとき、わたしは身をよじって体を離した。
「も……帰りたい!」
涙がボロボロこぼれてくる。
「話があるって言うから来たの。ずっとしゃべれなかったから……誘ってくれてうれしかった。深刻な話かもって怖かったけど、でも話がしたかったの。
こんなところで無理やりキスをされるために来たんじゃないよ? 親にウソまでついて出てきたんだよ」
「話なら、あっから」
純太くんはそう言ったけど、わたしは首を横に振った。
「話なら、こんなとこに来なくたってできるよね?」
「こんなとこ?」
「うん」
涙をゴシゴシ拭うわたしを、純太くんは黙って眺めていた。