憂鬱なソネット
そうだった。


寅吉と巧は、まだ面識がなかったのだ。



寅吉がうちにプロポーズしに来たときは、巧は彼女とデートに行っていて、

結納のときは巧は出張中で、

結局、今日まで顔を合わせる機会がなかったのだ。




「………え? 弟の巧くん?」



「あ、どうも。巧です。いつも姉がお世話になってます」



「あ、いえ、そんな、こちらこそ……」




真顔で頭を下げ合っている、タキシードの男と薄汚れたTシャツの男。



神父さんが呆然と二人を見つめている。


親族たちもぽかんとしたまま言葉もなく二人を見つめている。




なんとも妙な沈黙がチャペルに流れた。



聞こえてくるのは、呑気に流れるBGMのカノンだけ。




「………なぁんだ、よかったぁ」




場違いなほど間抜けな声で、寅吉が言った。




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