憂鬱なソネット
「ゆ、指輪………?」



あたしは思わず神父さんの前に置かれている結婚指輪を見る。


寅吉のお父さんとお母さんが用意してくれたものだ。


「寅吉のことだから、どうせ指輪なんか用意していないだろう」


と気をきかせてくれたのだ。



たしかに寅吉は、指輪の『ゆ』の字も口にしたことはなくて、婚約指輪も作っていなかったし、

あたしのほうも別に指輪なんていらないかな、と思ってたし。



でも、挙式するとなるとやっぱり指輪は必要なので、ありがたく頂戴していたのだ。



だから、まさか寅吉が指輪のことを気にしていたなんて、びっくりだ。



あたしの動揺を察したのか、寅吉が説明するように口を開いた。




「ある小説を読んでたら、結婚が決まった相手に、ダイヤモンドの婚約指輪を贈る場面があって。

だから、俺もあやめさんにあげたいなって思ったんだけど、俺、ダイヤモンドってどこで手に入るか分からなくて。


百科事典で調べたら、主な産地はアフリカって書いてあったから、慌ててアフリカに行って採ってきたんだ」




< 116 / 131 >

この作品をシェア

pagetop