憂鬱なソネット
そのとき、寅吉の目が大きく見開かれた。





その視線はあたしの後ろに注がれている。





振り向くと、そこには、リビングのドアから仲良く並んで顔を出す、お父さんとお母さん。






「………はっ、はじめまして!

西郷寅吉です!」






寅吉ががばっと頭を下げると、お母さんが「あらまぁ」と声を上げた。







「あなたが寅吉くん?

私があやめの母です。

いつもあやめがお世話になってます」






「いっいえ、こちらこそ……」






「あやめの父です」





「はいっ、どうもはじめまして」







三人のやりとりを眺めつつ、寅吉も焦ることがあるんだな……とあたしはちょっと驚いていた。






あたしの知っている寅吉は、いつも猫背でのっそりしてて、ぼんやりおっとりしてるから。






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