この思いを迷宮に捧ぐ
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一月余り、会うことのままならなかった恋人に会う。


それは、ただでさえ緊張を伴うものだ。千砂の場合は、周囲に対しても、持てる限りの注意を払わなければならない。


煌が、新たな演題の初演を迎えた。

だから、今夜ならば、国王がトップの劇団の楽屋を訪れても自然だろう。


劇団員の労をねぎらう言葉をかけながら、少し前には通い詰めていたはずの、晁登の部屋に向かう。

千砂の緊張は一歩ごとに増して、神経は尖って行くのに、頭の中心はぼんやりして熱を帯びているかのようだ。


「行ってらっしゃいませ」


坡留がその戸口で、いつも通りのトーンでそう告げる。

しかし、彼女のその目の奥に、わずかな強張りを、千砂だけは感じる。


小さく頷いて見せて、千砂はこくんと緊張を飲み下し、扉を叩く。




「ありがとう」

晁登が、変わらない笑顔で千砂を迎えたから、千砂は思わず涙が出そうになった。
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