この思いを迷宮に捧ぐ
「こちらこそ、楽しかった。ありがとう」


土の国に古くから伝わる神話を元に練られたストーリーは、千砂の興味を強く引き付けた。

近頃の煌について、毛色が違う演題が増えたという声を耳にすると、千砂は内心ドキリとする。晁登は脚本は書かないが、何らかの働きかけはしている気がするからだ。

今のところ、国民にもおおむね好評の上、千砂も純粋に演劇を楽しむという子ども時代の気持ちを取り戻すことができている。


まだドキドキと鳴り続ける心臓をなだめながら、千砂は晁登からぎこちなく視線を外す。

晁登の笑顔は心臓に悪い時がある。

そう、こんなふうに、と千砂は呼吸を整えつつ、化粧台の前にたっぷりと生けられた小さな紫色の花の束を見つける。


「ああ、もうこの花の季節になったのね。私も大好きなの。町ではあまり見かけない種類なのに、どこに咲いていたの?」

思わず嬉しくなって、千砂がそう言うと、晁登は奥に立っている彩菜を見やった。

「あ...」

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