この思いを迷宮に捧ぐ
「そうなのかもしれない…」

そう思うと、千砂は少し気持ちが落ち着いて、自分の喉が渇いていることにようやく気が付いた。



「何か、飲めるものはあるかしら」

初めて入った楽屋の中で勝手がわからずに、千砂が晁登に尋ねると、彼は小さな筒を胸元から取り出した。

「明日の早朝練習用に作っておいたハーブティーを持って来てる」

「私がいただいていいの?」

「もちろん」


薄暗い灯りの中で千砂が、ペンダントのトップをその液体に浸すのを、晁登は見ていなかった。

ちょうど、念のためにドアに鍵をかけに行くつもりで、千砂に背を向けていたから。



カタン。

軽い音がして、晁登が振り返ると、千砂がその小さな水筒を落としたところだった。


「ごめんなさい、大切な水分を」

慌てて床を拭こうとする千砂を留めて、晁登は彼女の手元から滴を拭ってやった。

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