この思いを迷宮に捧ぐ
は!?

千砂が目を見開いたときには、しっかり自分がその口付けを受け止めているという事実を思い知らされるだけだった。


「あま。…って、たとえだと思ってたんだろ?ほんとに甘いから、あんたの口の中」

静まり返っていたテーブルのあちこちから、遠慮がちな咳払いや、本物の咳が聞こえ始めて、千砂はめまいを覚える。

「だから、毒の味も、俺にはわかるの。わかった?味覚音痴のみなさん」



奇妙な空気に包まれる会場で、何やら思うところのあったらしい波留が、そっと千砂の傍の瓶を引いて、壁際の水槽へ向かった。

とぷりと、一筋の赤い液体が注がれて、それがゆらゆらと線状に広がって消えてゆくのを、全員がただ見守っていた。

不意に1匹の魚が腹を見せたと思ったら、そのままぷかりと水面に浮いた。

そのまま次々魚が死んで行き、会場は騒然となったのだった。


つまり、最初の顔合わせのときに、翠が自分のことを「簡単に死なない体質」と評したのは、こういうことを指していたのだろう。

毒物の味を、敏感に察することができる味覚の持ち主。

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