この思いを迷宮に捧ぐ
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「だめなの、口を塞がれるのは」
いくらか落ち着いた様子で、ようやく千砂がそう呟いた。
男性不信であることは認めるが、病的なまでに異性への拒否反応が出るのは、口を塞がれた時だと、千砂も今回のことで、はっきりと気がついた。
「ナイフより嫌なのか」
翠にそう問われると、確かに変だと思うが、つい今しがた、それが事実だとわかったばかりなのだから仕方がない。
「私にとっては、声は最終の武器だから」
あのときだ。
過去の事件のあの日、小さな悲鳴を上げた千砂の口を、岳杜の叔父はとっさに片手で塞いだ。
考えたくはなかったが、今はあれが原因だとしか思えなかった。
宮殿の中で声を上げれば、誰かが助けてくれるという環境で育っていた千砂は、すぐそばにいる人間の誰にも助けを求めることができないという皮肉な状況を、初めて体験した。
宮殿に仕えてくれる人々だけではない。
千砂にとって声は、土の精霊に呼びかけるための、大切な道具だ。呪文を唱えることができなければ、特殊な能力を発揮することもできなかった。