この思いを迷宮に捧ぐ
「陛下、右手30度の方向を」
あさっての方向を向いたままで告げた坡留に、千砂ははっとしてそちらを向いた。
沿道の人波を越えて、木の陰に立っている背の高い男が目に入る。
一瞬だけ横顔が見えたものの、遠すぎてその表情まではわからない。
だけど、それからすぐ背を向けて遠ざかるその背格好や歩き方は、確かに翠によく似ている。
千砂を乗せた馬車が通りかかる頃には、その男の姿はすでにない。
翠は、公式な発表では、3カ国を巡る外遊に出ていることになっている。