この思いを迷宮に捧ぐ
本当に、密偵を探す軍人のような視線を、あたりに向かって投げかけていたからだ。


まさか。他国の主賓を指差したりしないだろうか。

いくらお芝居とは言っても、それはやりすぎだろう。千砂は、とっさに客席の警備を確認した。

主賓席の手前には、全ての通路を遮るようにして、警備の担当者が付いていた。


千砂が安堵したその時。



「密偵は、そなたであったか」

恐ろしく低い声がお腹の底に響くように感じて、千砂は息が止まった。

千砂だけではない。劇場全体が静まり返り、ピンと張り詰めたように緊張した空気に包まれる。

晁登の意志の強そうな目が、射るようにしてある一人の男を捕らえていることに、千砂が気づいたその瞬間にはもう、剣は振り上げられていた。


「報いを受けよ!」


晁登の台詞の後で、水を打ったような静寂が訪れた。

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