この思いを迷宮に捧ぐ
客席が4カ国のトップが集う場になっているにも関わらず、戦争の爆撃シーンだったのだから。


どういうつもり、晁登。大切な日なのに。胸の内で、千砂は彼を問い詰めたい気持ちになる。

一瞬、周囲の空気も緊張したように感じたが、すぐに架空の国を舞台にした過去の世界、という設定であることがわかってきて、それも気のせいだと千砂は思うことにした。


何より、千砂自身が、舞台の世界に夢中になっていた。

国家間の関係が急速に悪化したのは、どうやら各国に密偵が紛れ込んだせいらしい。自国の利益を追求するために、他国を攻撃するように仕向けたのも、その人物。

ドキドキしながら舞台を見守っている千砂は、もはやこれが政務であることを忘れていた。


「密偵は、この中にいる」

晁登が、すっと長い腕を伸ばして客席を指した。

さらに、彼がゆっくりとした足取りで、脇の階段を下り、客席の間の通路を進む。

「証拠はある。もう、逃げられはしないのだ」

そう言いながら、次第に階段を上がってくる晁登の表情が見える距離になり、千砂ははっとした。
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