この思いを迷宮に捧ぐ
は?と彩菜が首をかしげた様子も、ようやく少女らしい仕草に見えて、黄生はしげしげと眺めた。

「その仕草も」

ずいっと黄生が近寄るので、彩菜はのけ反るしかない。

「表情も」

触れんばかりの距離に、とうとう彩菜は立ち上がった。

「な、にをおっしゃいます。私など。仕事がありますので、失礼し」

彩菜が今にも逃げ出しかねず、黄生は咄嗟に服の裾を掴んだ。


「名前を教えて」


自分でも、情けないような声で、黄生は必死にそう言った。


「…殿下のお耳に入れるような名でもございません」

困惑した表情が見えなければ、はねつけるようにも聞こえる声音だ。

「聞くまで離さない」

黄生は、意地になる自分が意外で、自分らしくないと思うのに、手を離すこともできない。

しばらく固まっていた彩菜は、諦めたようだ。


「彩菜と申します」


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