この思いを迷宮に捧ぐ
近頃口数が少なくなった兄に、何か恋人の様子でも伝えてやれるかと思った彩菜は、小さな失望を感じる。

それと同時に、黄生の自分に対する奇妙な関心の芽も摘んでおこうと決意した。


「私が口を利かなかったせいでしょう」


まず、彩菜はそう声に出してみる。

そもそも、現女王の弟であり、国政に担ぎ出されそうになっても自由気ままに振舞っている彼が、自分に興味を持つはずはないのだ。

平凡で、取り柄のない女の子。それがこれまでの私の立ち位置だし、これからもずっとそう。だけど、これからは、一層目立たないように生きて行くつもりなのだ。


そんな内心の決意など知る由もない黄生には、彼女の、細く小さな声だが、きっぱりとした話し方が、意外な感激をもたらす。

「できる限りごく親しい人間としか、関わらないことにしているのです。それは、わたしが自分で決めたことであって、殿下の何かが原因等と言うことはありませんから、ご心配には及びません」

彩菜は、そう突き放すように言ったつもりだったから、直後の短い沈黙には身構えた。

きっと、無礼だと言われるだろう。もし罰せられるようなことになったら、自分でも嫌だが、何より兄が心配するに違いない。

そうやって彩菜はひとり、不安を募らせていた。

「かわいい声だ...」


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