秘密実験【完全版】



 悠介を痛めつける自分は、悪魔のようだった。


 狂ったように笑いながら、彼の身体を傷つけるなんて……。


 夢の中では確かに、快感と興奮を感じていた。


 だからこそ、杏奈は怖かった。


 このまま自分が狂ってしまうのではないかという恐怖感と、悠介を夢の中とは言え傷つけたという罪悪感。


 私は……、本当は悠介のことをどう思ってるの?


 自問自答したが、それ以上は考えられなかった。


 考えたくないのだ。


 何だか頭がぼんやりと重い。


 目覚めが悪い上に、身体が熱を帯びていた。



「ハァー……」


 杏奈は重々しいため息をつき、毛布の上に頭を乗せた。


 横になると少し楽になった。


 静寂の中に、自分の息遣いだけが響く。


 ふと、杏奈は気がついた。


 最初の頃と比べて、明らかに“実験”が減っている。


 不気味な映像や脳に悪影響な音を聴かされたことも、遠い昔のように感じる。


 このぐうたらな監禁生活に意味はあるのだろうか?


 リーダーの男の意図がいまいち掴めない。



「……どうなるんだろう、これから」


 杏奈は小さく呟いた。


 どうなるんだろう、これから“私”は……。


 今は悠介のことなど頭の中から抜けていた。


 早くここから出て、自由になりたい。


 杏奈の願いはそれだけだった。


 果たして、その願いは叶うのか……?


 未来は誰も知らない。



「杏奈さん……。僕はあなたを守りたい」


 そっと星空を見上げながら呟く男も。



「まーこーと~! どこにいるの? 寂しいよぉ~!」


 一人の男を一途に愛する女も。



「イェーイ! ヒップホップ最高。あ~、踊りてぇ……」


 ひたすら趣味に没頭する男も。



「俺は殺してねぇ! 遺体もねーし。俺じゃねえよな? ヒャハハハッ……」


 犯した罪から逃れるためにやけ酒をあおる男も。



「……」


 肖像画の貴婦人を見つめながら、物思いに沈む男も──。


 彼らの誰もが、未来を知らない。


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