それでも僕は君を離さないⅡ
「それは、何もしないことだ。」

「何もしないって、どういうこと?」

「何かをしてはならん、ということだ。」

「よくわからないな。もっと詳しく。」

「つまりだ、彼女が忘れてしまったことを思い出させるようないかなる言動もしてはならない。なぜなら相手の心にストレスを荷担してしまうだけだからだよ。それでなくても充分に苦しんでいるところへ、他人が本人以上にそれを求めることに手を貸してはならない。」

「じゃ、俺にできることは何もないじゃないか、そうだろ?」

「私はたくさんあると思うがね。」

「例えば?」

「いつも通りに接すること。いつも通りに話せばいい。そしていつも通りに過ごすことだ。特別なことは避けた方がいい。」

「つまり刺激してはいけないってことか。」

「おまえもようやくわかってきたか。」

「物足りないな。もっと何かできると思っていたから。」

「彼女を信じてあげることだ。途切れた部分は完璧には戻らないのだよ。」

「そうか。」

「無理に補おうとしない方がいい。今のままを受け入れてやれる器がおまえにあるかが問題だ。」

「うん。」

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