雨のち晴れ



私は自分の名札に目を送るが、やっぱり名札には【朝比奈】と名字だけ。

この人、今 私の名前、呼んだよね?

「名前、紗子、でしょう?」

「え、なんで…」

私はもう一度その人を見た。

背が高く、ピシッとしたスーツ。長髪とは言わないまでも、柔らかそうな髪は無造作にワックスで整えられている。
高い鼻に、切れ長の目。
その瞳の奥は何を語っているのだろうか、でも怖くない瞳だった。

「あの、どうして…」

こんな人、私 知らない。


その人はフッと柔らかく笑った。

「やっと日本に戻って来れたんだ。」

「は、はぁ…」

「紗子、これからは俺が君を守るよ。」

「―――は…」

え、何、この人。不審者?

「…警察呼んでもいいですか?」

不審者と思われる人がいたら、警察を呼んでもいいというマニュアルになっている。
だってこの人、明らかに不審者でしょう?

「いやいや、だめでしょ。俺、怪しいやつじゃないし。」

この人、頭大丈夫だろうか?
私の名前は知っているし、突然おかしなことを言い出すし、ただの怪しさの塊なんだけども。

「これは、手強そうだな。」

「……。」

不審者はクスクス笑った。

「とりあえず、紗子が俺に心開いてくれるまで頑張るわ。」

「……。」




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