絶対王子は、ご機嫌ななめ

こんな時、本当だったら『離して!』と、政宗さんの腕から逃げ出そうとするのが正解なのかもしれない。でもどうして私の身体は、こんな時に限って『離れたくない』と素直な反応をしちゃうんだろう。

政宗さんの腕の中が温かいから? 抱きしめる腕の力が強いから?

苦しいほど抱きしめられているのに、幸せを感じてしまう。

「なあ柚子。おまえ今日何度、俺から逃げるつもりだ?」

吐息が耳にかかり、政宗さんを一段と近くに感じる。

「に、逃げるなんて、人聞きの悪いこと言わないで下さい。政宗さんが追うからいけないんです」

首をすぼめ、政宗さんの顔がない方へと自分の顔をそむけた。

このまま抱きしめていて……。そんなワガママ言っちゃいけないのに、もう喉まで出かかっていて苦しい。

「まさ、むねさん……苦しい……です」

それは今の胸の内のことを言ったのに、政宗さんは腕の力を弱め私の身体から離れた。

「悪い。とにかくだ、一度リビングに戻るぞ」

「はい……」

私がひとこと返事をすると、政宗さんの気配が側から消える。私は小さくため息をつくと、政宗さんを追うように、リビングへと戻った。



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