メガネのヒメゴト
帰りの車の中、涙がでてこなかった。


ずっと運転しているあなたの横顔だけをそっと見ていた。


泣いてはダメ、泣いたら終わってしまうとココロの中でつぶやき、目立たない位置で、やわらかい皮膚をつねっていた。


家の前についた。


車を降りるのをためらった。


数秒、車内の時間がとまったようだった。


あなたの視線をあわせないように、ドアを開け、車外に出た。


「それじゃ」


「うん」


まるで明日も迎えに来てくれるようなやりとりだった。


ドアを閉めると、あなたはわたしに手を振ることをせず、車を発進させた。


わたしもあなたに手を振らず、走り去る車をじっと見た。


もうあの車には乗ることはないのか。

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