ミク。
久々の実家。そんな感覚に包まれる珠里夜の家。
小ぶりな玄関から入ってすぐの所にスマートな物置が設置されていて、下のコンクリート部分には靴が数人分置けるスペースが設けられている。中に入ると3人用ぐらいの丸テーブルがあって台所で造った料理をすぐ出す為のカウンターがある。そこを抜けて左に行くと寝室兼居間があって、その奥には狭いバスルームがセッティングされている懐かしい空間。

「ここ…今は春が使ってるんですね。」

そう云って冬は家に帰りつくなり自分がちゃんと付いて来た事に安心したのか?急に力尽きたようにガクッとなって、そのまま気を失ってしまった春が今仕方寝かしつけられた大人一人用のベッドを見るとも無く見てもの悲し気に微笑んだ。……‥昔、自分が使っていたベッド。

《嫌ですか?》

珠里夜からの問い掛けに静かに首を左右に降って

「いえ。春なら良い」

と囁きながら居間の向こう側へと漆黒の瞳を向ければ以前、ここに住んでいた時に茶道用の飾り等に使っていた美しい松を枝いっぱいにいつも生やしてくれていた松の木が見える。それは今でも美しい松でいっぱいだ。…‥毎年、春は桜やチューリップ。夏は紫陽花。秋は金木犀と銀木製。冬は水仙や冬椿が咲いて庭を飾ってくれるのを彼女と眺めるのが好きだった。
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